「わが愛、陽子から」 荒木陽子
物想いに沈んでいる表情がよい、
と言ってくれた。
私はその言葉にびっくりして、
じっと彼を見詰めていたような気がする。
それまでの私の世界は、
きっと、原色だったのだろう。
けれど、その原色は、
渋いニュアンスのある色に変わろうとしていた。
一人の男の出現によって、
季節がはっきりと区切られていくのを、
秘かに自分の心の中に感じていた。
私、20才。
彼27才。
冬の終わり頃だった。
廃墟で 荒木経惟
ヨーコが逝って、部屋の中から、
空ばかり写していたわけではない、
部屋からバルコニーに出て、
バルコニーから、
空、風、光、
となりの柿の木とか、
テラスにからみついた蔦とか、
バルコニーの隅に忘れてたモノとか、
バルコニーを写場に、
ヨーコの好きだったグラスにビールをついで
その光と影とか、
枯れてゆく花とか、
小鳥がつついたりんごとか、
ヤモリのみいらとか、
ヨーコと私のジョギングシューズを並べて
写したりしていた、チロと。
それらを「空景 近景」と題して写真集にした。
写真集にするとふつーもーソコは写さないのだが、
まだ私は
廃墟になったバルコニーで写しつづけている。
一つ目は、写真家荒木経惟に、後に妻になる陽子が出逢った時の陽子の詩。二つ目は荒木経惟が早世した妻陽子に捧げた言葉。
二つを並べると、陽子の歌の繊細さと爽やかな高揚感が、妻を亡くした後の経惟の索漠感を余計に際立たせる。だけどこんな夫婦って、とても幸せだったんだと思いませんか?。