浜口國男 便所掃除

扉をあけます./頭のしんまでくさくなります。/まともに見ることができません。/神経までしびれる悲しいよごしかたです/澄んだ夜明けの空気もくさくします/掃除がいっぺんにいやになります。

むかつくようなババ糞がかけてあります。 

どうして落ち着いてくれないのでしょう

けつの穴でも曲がっているのでしょう。

それともよっぽどあわてたのでしょう。

怒ったところで美しくなりません。

美しくするのが僕らの務めです。

美しい世の中もこんなところから出発するのでしょう。/くちびるを噛みしめ、戸のさんに足をかけます。/静かに水を流します。/ババ糞に、おそるおそるほうきをあてます。/ボトン、ボトン、便壺に落ちます。/ガス弾が、鼻の頭で破裂したほど、苦しい空気が発散します。

心臓、爪の先までくさくします。

落とすたびに糞がはね上がって弱ります。

 

かわいた糞はなかなかとれません。/たわしに砂をつけます。/手を突き入れて磨きます。/汚水が顔にかかります

くちびるにもつきます。/そんなことにかまっていられません。/ゴリゴリ美しくするのが目的です。/その手で、エロ文、ぬりつけた糞も落とします。

 

朝風が顔をなで上げます。/心も糞になれてきます。/水を流します。

心に染みた臭みを流すほど、流します。

 

雑巾でふきます。/キンカクシのウラまで丁寧にふきます。/社会悪をふきとる思いで、ちからいっぱいふきます。

 

もう一度水をかけます。/雑巾で仕上げをいたします。/クレゾール液をまきます。/白い乳液から新鮮な一瞬が流れます。

静かな、うれしい気持ちで座ってみます。

朝の光が便器に反射します。/クレゾール液が、便壺の中から、七色の光で照らします。

 

便所を美しくする娘は、

美しい子をうむ、といった母を思い出します。

 

僕は男です。

美しい妻に会えるかも知れません。