河野 進

太陽の光は

うすい障子紙さえ

むりに通らない

厚い鉄の扉も

すきまからさっと入る

愛とは

かくもひかえめで

逞しくすばやいのであろうか

 

自然と文化

木は一本で静かに

並んで林になって さらに静かに

重なり森になって いよいよ静かに

車は一輪で音をたて

並んで車輪になって さらに騒音たかく

重なり轟音になって 耳をつんざく

自然と文化のちがい

むかしの人ははっきり分けていた

 

唯一人

金殿玉楼の権力者も

軒の傾いた廃屋の貧しい人も

やさしい母は唯一人である

神さまは世の創めからお決めになった

もっとも大切なものは

たれにも与えられて

いつも一つである

太陽のように

 

祈りと愛

神さまはどんなお祈りでもきいて下さるのし

よね子さんは神経痛ですわれない

長年わたしを大切にしてくれたのに

何もお礼ができなくて気の毒ですから

せめてわたしが病気を引きとって

天国に召して下さいとお祈りしていたのよ

そしたら座れるようになってのし

こんなうれしいことないのし

よね子さんにそっとたずねた

ほんとうに治ったのですか

おばあさんが熱心にお祈りして下さるから

安心させてあげたいと

目の前では無理をして座ります

姑と嫁とのやさしい心づくし

これこそ祈りがきかれたと言えないか

祈りは愛だから

 

病む

病まなければ

聞き得ない慰めのみ言葉があり

捧げ得ない真実の祈りがあり

感謝し得ない一杯の水があり

見得ない奉仕の天使があり

信じ得ない愛の奇跡があり

下り得ない謙遜の谷があり

登り得ない希望の山頂がある

 

手足

よくしゃべる人は 手足が動かず

口下手の人は 手足が軽い

りくつを言う人は 手足が冷たく

だまっている人は 手足が温かい

富んでいる人は 施したがらず

貧しい人は ないものでもやりたがる

よくもまあ

神さまは公平におつくりなさる

 

はっきり

キリスト教はきらいですが

あなたは好きです

はっきり言われて

うれしいような

つらいような

そして

やっぱり偽善者だな

うなだれたり

 

心にもない言葉はいうな

むだな言葉はいうな

不快な言葉はいうな

冷たい言葉はいうな

確信のない言葉はいうな

傷つける言葉はいうな

愛の手がいうのは

いつまでも残る言葉

 

祝福

最も祝福された生き方は

最も価値なしと思われる人に

最も大切な時間と物を捧げて仕える

物を買うのではなく 心からつくり出す

どんな無理を言う人にも

たえず微笑んで親切に答える

あなたの態度でキリストを見せて下さい

―マザーテレサの言葉―

 

深刻

生涯

最も深刻な悔いは

貧しい人の前を

素通りして

笑顔さえ

見せず

冷淡でごうまんな

一瞬である

 

一人

一言多く言うのはやさしく

一言少なく言うのはむつかしい

一歩多く歩くのはむつかしく

一歩少なく歩くのはやさしい

一握り多くあたえるのはむつかしく

一握り少なく与えるのはやさしい

一人信徒をつくるのはむつかしく

一人信徒をつまずかすのはやさしい

 

風見鶏

あの人はなんて暗い顔をしているのだろう

不思議がることはない

わたしの心が暗いのだ

なんて明るい顔をしているのだろう

不思議がることはない

わたしの心が明るいのだ

心の風見鶏が一日じゅう

休みなく廻っている

 

受けるより

主よ 受けるより与えるさいわいを

喜ぶより 悲しむさいわいを

審くより 許すさいわいを

羨むより 感謝するさいわいを

満ちるより 欠けるさいわいを

富むより 貧しさのさいわいを

健やかでたかぶるより 病んでへりくだるさいわいを

かなえられるより さらに祈るさいわいを

 

天国と地獄

賀川豊彦は突然 大きい声で言った

きみ 天国はどこにあるか知っているか

いいえ 知りません

人をほめるのは天国 悪口を言うのは地獄だよ

だから先生は悪口を言わないのですか

そんなことないよ にこっと笑った

深く印象に残っているから幾度でも書く

自戒のためにも

 

よろこび

祈らねば 祈られる喜びはない

施さねば 受ける喜びはない

病まねば 癒される喜びはない

種をまかねば 収穫の喜びはない

汗を流さねば 憩いの喜びはない

悲しまねば 慰められる喜びはない

貧しくなければ 親切の喜びはない

主イエスの十字架を負わねば 救いの喜びはない

みじめ
あの人は
まだお礼を言わない
忘れたのと違うか
ふと思った瞬間
きたないみじめな自分にあきれた

上と下
太陽の光は天上から下界をくまなく
雨は雲の上から大地深くしみ通り
川は山の上から大海まで立ちどまらず
木の根は土地から岩盤を突き破っても
筆は上から下へ幾百旅でも繰り返し
涙は目から下へ必ずこぼれ落ち
食物は口から下ならどこまでも
人間だけは無駄に戦い死んでも上に登ろうと