佐々木 実  昔も今も

土手の上に/すわっていると/若い男と女のやさしい笑いと、ささやく声がきこえてくる。

あれはみんなむかし私たちのものだった。

みんなおなじ格好で/おなじ言葉で

お互いを求めて/昔も水は/私たちの前を流れていて/おまえさんは/むかしすわった場所にすわるのは/わたしたちではないと立ちあがる。

南アメリカと/入り口のドアーにかいてある/喫茶店に入り/片隅にすわって

コーヒーを口にはこんでいると/入ってくるのは/やっぱり私とおまえさんの子供ぐらいの年頃の男と女ばかり/私はなにげなく顔をしかめる。

せまい貧しい椅子にすわっていても/私たちは毎年歳とっていく

テーブルにこぼしたコーヒーをふくと

汚れてしまった自分の手をふいているようで/しわのよった歳がテーブルにあらわれて/これからも、おまえさんと苦しみ生きていくと思うばかり

それから私もおまえさんも、言葉少なくしずかになっていくばかり。