谷川俊太郎

これが私の優しさです 

窓の外の若葉について考えていいですか

そのむこうの青空について考えても?

永遠と虚無について考えていいですか

あなたが死にかけているときに

 

あなたが死にかけているときに

あなたについて考えないでいいですか

あなたから遠くはなれて

生きている恋人のことを考えても?

 

それがあなたを考えることにつながる

とそう信じてもいいですか

それほど強くなっていいですか

あなたのおかげで

雛祭りの日に

娘よ―

いつかおまえの

たったひとつのほほえみが

ひとりの男を

いかすことも

あるだろう

そのほほえみの

やさしさに

父と母は

信ずるすべてをのこすのだ

おのがいのちを

のこすのだ