自(し)が国の貧しさを思わず 兵強きことほこりて足れりとするか 山本友一
子供等は我が身の代わり 悲しくば子供を抱け我と思いて 香田清貞
帰って来たか帰って来たかと老母は白木の箱を抱きて呼ばわる 田沢孝次
己が子の戦死告げるに振り向かず祖母は身固く縄ないていし 杉山葉子
つつ音を聞けばたのしと言ふ人を隣りにもちてさびしとぞ思ふ 釈超空
濁流だ濁流だと叫び流れゆく末は泥土か夜明けか知らぬ 斎藤 史
死を賭して戦ふはありき 死を賭して戦ひを罷めよと言うはあらざりき 熊谷大三郎 か黒葉にしづみて匂ふ夏霞若かる我は見つつ観(み)ざりき北原白秋
新しき明日の来るを信ずといふ自分の言葉に嘘はなけれど― 石川啄木
「新しき明日」とはいつぞその明日の今日につづきて五十年の後 土岐善麿