植村 諦  漂白途上


追われて来たふるさとである

何でそれが悲しかろう

人生はつまり旅ではないか

私が大和に生まれたことは

私の生まれた日に雨が降っていたのと同じ偶然で

それが私の人生と何のかかわりがあろう。

 

とうとうと逆巻く玄海の波の音を闇の中に聞きながら 

私は何度もそれをつぶやいているうちに

ぼうばくとしたものが私をつつんでしまう

夜の海は魔のようにひろがり

 

船は一すじに暗がりの中を走る

何かしら呼びかけてくる大きな力の誘惑に勝とうと私は

 

寂しく口笛を吹きながら

幾度も繰り返すのである

人生は所詮 旅ではないかーと。