辞世を集めてみました。
宗鑑はどちらへと人の問ふならば
ちと用ありてあの世へと云へ
山崎宗鑑
このよをばどりゃお暇と
線香の煙とともに はい左様なら
十返舎一九
家もなく妻なく子なく版木なく
金もなければ死にたくもなし
林子平
我死なば焼くな埋めるな野にすてて
飢えたる犬の腹を肥やせよ
歌川広重(安藤広重)
なよ竹の風にまかする身ながらも
たわまぬ節もありとこそ聞け
西郷千恵子
つひにゆく道とはかねて聞きしかど
昨日今日とは思はざりしを
在原業平
辞世にはどことなく明るさがあります。
それは死が本当につらいのは本人よりも残された者だからです。
ですから死にゆく人は、残された者の悲しみを思います。
父君よ今朝はいかにと手をつきて
問ふ子を見れば死なれざりけり
落合直文
隣室に書よむ子らの声きけば
心に沁みて生きたかりけり
島木赤彦
そして残された者も、何を見てもその人のことを思い出すのです。
其子等に捕へられむと母が魂
蛍と成りて夜を来たるらし
窪田空穂
幼い子供たちは愉しげに蛍を追っています。
その子供たちに捕えられようとして、妻の魂が蛍となって来たのだろうというのです。
亡き妻があとに残したこの子たちに、どんなに心を残したか。
そう思って夜空を飛ぶ蛍の光を追っている作者の切ない思いが心に響きます。
青空のもとに楓のひろがりて
君亡き夏の初まれるかな
与謝野晶子
君がいなくなっても、去年と同じように夏がやってきます。
もちろん来年もまた同じように。
季節は、君がいないことなど、まるで関係がないように繰り返します。
けれど私にとってそれは、ただの夏ではありません。
これからは永遠に「君亡き」という限定つきの夏なのです。