「僕のいた場所」
■ときに、崩壊寸前の家をかかえた者が相談にやってくることがある。聞いてみると十中八九、食が乱れている。食というものの中には数値的な栄養のほかに愛情という名の栄養が含まれているのである。中略
飽食の時代には意識されないが、食べる行為は人間の生活の最も重要な「タガ」なのである。「タガ」がゆるめば水が漏れる。
■ まず挙げるべきは家族という共同体の疲弊である。今日相当数の家族が、例えばかっての飢饉飢餓による家族離散に匹敵する、豊かさの中の家族離散の憂き目にあっている。私の周辺の一ダースぐらいの家族の状況を見渡しても、まんぞくに機能している家族は数えるくらいしかないから、家族の病弊はそうとうのところまで深化していると言っていいだろう。また先に列記した新興世俗宗教は七十年代末期から突如として連続的に起りはじめた数々の新しい家庭内暴力事件と並行して発生している。その点に鑑みても家族の喪失とそれは深いかかわりがあるものと推測できる。と言うより昨今問題になる新興世俗宗教はことごとく家族制度の代替として機能していると言う特徴が見られると言ってよい。